第53章

絶対に答えない男なのだ。頼まれなければ動かないし、頼んだ

から応えてくれるとも限らない。

言うべきことを言わなくとも、まるで平気。

「う、うあ」

隣から、八九寺の嗚咽が聞こえた。

あまりの現実に、とにかく驚くことだけに精一杯で、肝心の八九寺のことを、全く気遣えず

にいた自分に思い至り、僕はそちらを振り向く――八九寺は、泣いていた。

ただし俯いてではなく――前を向いて。

更地の上――家があっただろう、その方向を見て。

「う、うあ、あ、あ――」

そして。

たっ、と、八九寺は、僕の脇を抜けて、駆けた。

「――ただいまっ、帰りましたっ」

忍野は。

当然のように――当たり前のこととして、この結末を――こんな最後を、見透かしていたの

だろう。

言うべきことを――言わない男。

全く、最初に言っておいて欲しい。

ここに辿り着いて、八九寺に何が見えるのか。

僕や戦場ヶ原には、ただの更地にしか見えないこの場所を――すっかり変わってしま……

(ò﹏ò)

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